花鎖に甘咬み



「真弓は────」


それでも気になるものは気になる。
勢いで口を開いて、言葉を探して迷っていると。

くくく、と真弓が笑った。




「何が知りたい?」

「答えてくれるの?」

「限度はあるがな」

「じゃあ……ええと、まず、ここはどこ?」

「どこだと思う」

「 〈薔薇区〉 の外……だよね?」




だって、真弓が言ってたもん。
〈薔薇区〉 にはお寿司屋さんはないって。



それに、さっき……。

ここにくるとき、あの柵を鍵で開けて、出てきたんだもん。
〈薔薇区〉 を囲っている、あの、茨の柵を。




「よくわかってんじゃん。そう、ここは 〈薔薇区〉 の外だ。正確には西区だな」




西区。

東西南北、4つに分けられる私たちの街の西側の地域だ。

ちなみに北川の屋敷があるのが南区の北端で、〈薔薇区〉 と呼ばれているのは北区ね。



ややこしくて頭のなかがこんがらがりそうになるけれど……それよりも。




「〈薔薇区〉って外に、出られたの? あの金色の鍵って……」

「ふーん、いいとこに目ェつけんじゃん。考えなしの家出少女かと思ってたけど、ふつーに頭切れんだな」

「褒めてる?」

「褒めてる褒めてる。────出れねえよ、〈薔薇区〉 からは、一生な。言わなかったか? “事実上の監獄” だって」




覚えている。

記憶力はそんなに悪くないもん。




『社会の害になると判断されたヤツらをここに閉じこめておく。他域の治安を確保するのが目的でな。つまりは事実上の監獄、んで、一生出れねー』



あのときも、たしか、一生出れねーって。




「でも、今 〈薔薇区〉 の外なんでしょ?」

「そのとーり」

「じゃあ、あの鍵があれば……」




出入りできる、ってこと?

そして、その鍵を真弓は手にしていて……。




「んな甘い話じゃねえよ。言ったろ、これは奥の手だ」

「奥の手……ってなに?」

「この鍵は政府が管理してる。政府のお偉いさんが出入りするためのもんだ。それをたまたま 〈黒〉 が預かっててな」

「借りた、ってこと?」

「いや。くすねた」

「え゛っ」




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