花鎖に甘咬み
2階、高さにして3メートルとちょっと、のところから飛び降りたのだ。しかも裸足で。
さすがに無傷というわけにはいかなかった。
足首がまだじんじん痛い。
足の裏はすり傷だらけで、柵を越えるときに、ふともものあたりを茨にひっかけてしまった。
血の赤に、げんなりするけれど────でも。
これで、私は、晴れて自由なの。
北川の名を背負わなくていい、白百合で心のこもらない「ごきげんよう」をオウム返しする日々も終わり。
それは最高に清々しくて。
それと、同じくらい、不安なことだった。
「……っ、とりあえず、泊まるところを探さなきゃ」
今は夜。
これからどこで暮らしていくかは、夜が明けてから考えるとして、ひとまず一晩泊まるところを見つけないと。
「どうしよう……」
なにしろ、突発的な家出である。
衣服はおろか、財布やスマホすら置きざりにしてきてしまった。
なにかないかな、とワンピースのポケットをごそごそ漁ると、ビターチョコレート一粒。ベルギーの有名なブランドのもの。ただし、この際なんの役にも立たない。
「うう……」
がっくりと肩を落とした。
そして身震いする。
ところで、季節は冬。
かじかんだ手をきゅっと握った。
おちおちしていられない、このままここにいれば、せっかく自由を謳歌する前に凍え死んでしまう……!