花鎖に甘咬み
とにかく。
探しにいかなきゃ。
誰か私を一晩泊めてくれる、心優しいひとを。
痛む足に力を入れて立ち上がる。
……それにしても。
「暗いな、なんにも見えない……」
ここ、どこなんだろう。
街灯もなければ、月明かりすらほとんど届かない。
街ごと宵闇に溶けているみたい。
ひとの気配もぜんぜんしない……。
だんだんと心細くなってくる。
背中を這い上がってくるいやな予感を振り払うように、声を張り上げた。
「あのうー! どなたかー! どなたか、私を泊めてくださいませんかー!」
しん、と驚くほどの静寂。
たったひとりぼっちで世界に置きざりにされたみたい。
怖くなって、ふらふらと路地に出てみる。
「あのーっ、どなたかっ!」
ごきげんようのオウム返しで鍛え上げられた肺活量をフル活用して、声を張り上げた。
────すると。
「……っ?」
ザッ、ザッ、ザッと足音。
うしろから近づいてくるその音に、ふり返れば、私の呼びかけに反応してくれたやさしいひとが────。
「見たことねえ面だな」
「女か」
「侵入者一名発見、南4番地、これより身柄を確保する」
訂正しよう。
やさしいひと、ではなく。