花鎖に甘咬み
「もちろん。さっき言った通りだよ」
心変わりも、きっと、しない。
このとき真弓を選んだことを、私は絶対に後悔しない。
根拠もないのに、自信だけはしっかりある。
「見たくないものを見ることになるかもしれない。信じるべきものが分からなくなるかもしれない。〈薔薇区〉に戻るっつうことは────俺のそばにいるってことは、危険が常につきまとうのと同義だ」
「わかってるよ。……真弓って案外心配性なんだね?」
心配しなくても、私、図太いしか弱くないのに。
真弓らしからぬ気づかいの台詞に、にやにやと笑っていると、こつん、とおでこを小突かれた。
「お前が飛んで火に入るような危なっかしい女だからだろ」
「なによう、私だってちゃんと考えてるんだからね!」
むう、と頬を膨らませると。
「もう知ってる」
くしゃり、と真弓の手のひらが雑に私の前髪を撫でる。
「運命なんてねじ曲げて、蹴っ飛ばして生きていく────ふは、悪くねえな。俺は、お前のその覚悟を尊重する」
「……!」
「ただし、もう “助け” ねえぞ。もう二度と柵の外には出られない。一生、あの狂った街に閉じこめられて、お前のことをよく知りもしないヤツらにつけ狙われる」
真弓は手のひらをぱっと広げて、私の目の前に差し出した。
「それでもいいなら、俺の手を取れ」
デジャヴ。
たしか、数時間前も同じように手を差し伸べられた。あのときにはあった迷いが、もう、ひとつもない。
ためらうことなく真弓の手のひらに自分のそれを重ねると、真弓が口角をくっと上げたのが気配で伝わってきた。
「いい度胸してんな」
「そんなの今さらだから!」
ふは、と柔らかく空気の抜ける音。
そして、愉悦まじりの真弓の声が耳元で囁いた。
「連れ出してやるよ、お望み通り」