花鎖に甘咬み
第 Ⅱ 幕
狼と人間
× × ×
そこから柏木たちから逃れるまでは、見事なまでに鮮やかだった。
「そうと決まれば、出るぞ」
「ちょっ、まずはお会計……!」
「のんきにおあいそしてる間に、お前捕まるだろうが」
ポケットから何枚かお札を雑に取り出した真弓は、テーブルの上にそれを置く。
お会計する代わりに、ここにお金を置いていくつもりだったみたい。無銭飲食する気じゃなくて、よかった。
なんて、変なところで安心していると。
「な、なに?」
真弓が頭のてっぺんからつま先まで、じーっと見つめてくる。
「GPSとか付けられてんじゃねえだろうな」
「あ、それは安心して! 家出するとき置いてきたからっ」
私の居場所を知らせるために、お父様と柏木がそれぞれ私に持たせたものはふたつ。スマホと、かばんにつけたうさぎのキーホルダー(GPS内蔵)。
ちゃんと、全部置いてきた。
……というか、突発的な家出だったから、持ってくる暇もなかったと言った方が正しい。
「くはっ、抜け目ねえな」
そう言って笑った真弓は、次の瞬間、勢いよく私の体を抱え上げる。
「ひゃああああっ!」
「おいデケー声出すなよ」
「っ、真弓が急に持ち上げるからでしょ〜〜!」
誰かに体重を預ける感覚は、何回されたって慣れない。