花鎖に甘咬み
「てゆーか、わざわざ私のこと抱えなくてもっ」
「だからこっちのが速いんだよ、いい加減諦めれば」
タッ、と地面を蹴る音。
周りの景色が目まぐるしく変わっていく。
せめて、振り落とされないように真弓の胸にぎゅっとしがみつくことしかできないでいると。
「お前、もっと食った方がいいんじゃねえの」
「へ?」
「軽くて不安になる」
「食べてるよっ? 真弓も見てたでしょ、私の食いっぷり」
「そういう体質か」
「それに、女の子はほっそりしてる方がカワイイってもんじゃないの?」
「いや、別にぶよぶよ肉つけてよーが、お前はお前だろ」
そんなことで評価は変わらない、とあたりまえのように言われた。
そんな会話をしつつ、素早くお店の外へ出る。
さすがに、このスピードには柏木たちも着いて来れないはず……と油断したのだけれど。
「厄介な」
「え?」
真弓の呟きに、首を傾げる。
「囲まれた」
端的に説明されて、辺りを見回す。
そして、息を呑んだ。
「ちとせお嬢様!」
「……っ、柏木」
正面に、柏木。
それから、左右、うしろ────全方向に北川のボディガードの男たちがずらりと私たちを取り囲んでいる。
いつの間に。
「ちとせ様、あんな時間に屋敷を飛び出して、どこに行かれていたんですか。その前に……その男は誰です?」