花鎖に甘咬み
じりじりと近づいてくるのは複数人の……たぶん、男のひとたち。黒いフードを目深にかぶっているから、よくわからないけれど、体躯が男っぽい。
「追え!」
先頭を立つひとりが声を荒らげる。
それと同時に、タッと地を蹴る音。
「……っ!」
ひゅ、と喉が鳴った。
捕まったら、たぶん、これは、だめなのだ。
そういう嫌な予感がして、頭のなかで警告のブザーが鳴り響く。
フードの黒ずくめの男たちが迫りくる直前、間一髪のところで脳が足へと指示を送った。
────逃げろ。
「……っ、はっ」
うまく力の入らない足をなんとか動かして、走る。
逃げなきゃ、とにかく……どこか、安全なところへ。
このひとたちが何者なのかもよくわからない。
けれど、危ない、よくない、それだけは纏う空気でありありとわかる。
「逃げたぞ! 右だ!」
「落ち着け、相手は女だ。おそらく〈外〉の」
「ハッ、逃げ切れるわけがねえってか」
「つーかよ、〈外〉のガキがなあんでのこのこ〈薔薇区〉に入ってくるかねー」
「命知らずなんだろうよ、可哀想に」
「同情はしねえがな」