花鎖に甘咬み
無言で、否定しない。
ということは、イエスだ。
ええ、待って。
「出血大サービスだね……?」
「……。お前、ときどき俺のこと舐めてるよな」
「なめてないですよお」
だって、だって、考えてもみてよ。
世間一般の男の子といういきものは、もしかすると、女の子の髪が濡れていたら優しく乾かしてくれるものなのかもしれないけれど、今、私のそばにいるのは、真弓なんだよ?
真弓って、絶対、そういうことするようなタイプじゃない。
いったい、どういう風の吹き回しで……?
「別に、ちとせが風邪ひくんじゃねえか、とかそういう心配してるわけじゃない。お前、頑丈そうだしな。そう簡単にはぶっ壊れたりしねえだろ」
「だったら、なんで……」
「もったいねーじゃん、せっかく綺麗な髪してんのに」
するり、とまるで大切な宝物にふれるかのような力加減で、真弓の指が私の髪をすく。生まれつき薄茶色の、背中の真ん中あたりまで長く伸びた髪。
綺麗だ、なんてそんなことを言われたのははじめてだ。
「そんな、理由で?」
「綺麗なものは、なくならないように大事に守るもんだろ」
「……!」
じ、と真弓に見つめられる。
髪、長く伸ばしておいてよかった、なんて思ってしまった。
自分の体の一部を、誰かに大切にしたいと思ってもらえることが、こんなにくすぐったくて、嬉しいことだなんて、今はじめて知った。