花鎖に甘咬み



「いいから、じっとしてろ」



私の背後に腰をおろした真弓は、ドライヤーのスイッチをカチリと入れた。ブオオオオ、という轟音とともに、温風が頭皮を直撃する。


やろうと思えば、優しくもできるらしい。
いつも雑なくせに、髪を乾かす真弓の手つきはやけに丁寧で、優しくて、心地よかった。


眠気で判断力が鈍っていて、その上の真弓のレアな優しさに、私の奥の方で眠っていたはずの甘えたがりが顔を出す。


こて、と頭を真弓の方へもたげた。



「ちとせ?」




ドライヤーの音で、真弓の声はほとんど聞こえない。

それをいいことに、頭を真弓の体にすり寄せる。意外にも、文句のひとつも言わず、ぽんぽんと柔らかく頭を撫でてくれた。



「限界なら、このまま寝ていい」



ドライヤーの隙間で 『寝ていい』 だけ聞こえた。ふるふると首を横にふる。まだ、寝ないもん。まだ……。



「わがままお嬢様」



ふに、と頬をつままれた。
でも、やっぱり、力加減が優しい。


甘やかされているのかもしれない、と思う。甘やかされると、もっと甘えたくなってしまう。



ずっと、この穏やかな時間が続けばいいのに────なんて、そんな、起こりっこない都合のいいことを考えてしまうのは、真弓が私に向ける視線が、今、ふやけてしまうくらい甘ったるいからだ。




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