花鎖に甘咬み



真弓に触れられていると思うと、きゅうう、と胸の奥が詰まる。


ブオオオオ、と相変わらずドライヤーは轟音で、今ならなにを言っても真弓には聞こえない。




「……好き、だなあ」




呟いた声は、予想どおり、すっかりドライヤーの音に隠れてしまう。だけど、心の中を吐き出すと、少しすっきりした。


だって、こんなの、恋でしかない。


出会ったその日に、素性をよく知りもしない危なげなひとに、なんてきっと誰かに話せば笑い飛ばされてしまうだろう。それか、呆れて取り合ってもくれないと思う。



────けれど。



真弓の一挙一動に心がゆらゆら動くのも、心臓がとくとく動くのも、真弓の手を取った先の未来がどうしようもなくきらめいて見えるのも、こんなの、強烈に惹かれてるからだとしか言いようがないの。




私、このひとのことが、好きなんだ。





「ちとせ、何か言った?」




カチリ、とドライヤーを止めた真弓が訝しげな顔をする。

途端に聴覚がクリアになって、慌てる。




「ううんっ! なにも! 言ってないですけど!」

「お前な、ごまかすの下手くそか」




ジトッとした視線を向けられて、ギクリと固まる。


さすがは真弓。

いくらなんでも、勘が鋭すぎるよ。ドライヤーの音で、絶対、私の声なんか聞こえなかったはずなのに。




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