花鎖に甘咬み


ぎこちなく否定すると、それ以上追求されることはなくて、ほっとした。今はまだ、真弓に、『好き』だなんて言えない。


ううん、このまま、ずっと言えないかもしれない。



「寝よ」



真弓のおかげでしっかり乾いた髪をするりと撫でて、真弓が立ち上がる。上目づかいにその姿を追いかけた。



「あの、私、どこで寝れば……?」

「ベッドあんじゃん」

「え? でも真弓は?」

「ベッドで寝る」



……???


疑問符が頭にいくつも、ぽわぽわ浮かぶ。この部屋にベッドはひとつきり、しかもシングルベッド。私がベッドで寝て、それから真弓もベッドで寝るということは、つまり……?


答えが弾き出されるまでに、落ちついていたはずの睡魔がぐわっといきなり襲いかかってきて。

かくん、と首が深く落ちる。


と、次の瞬間には体が宙に浮いていた。




「しゃーねえな」

「へ……っ? や、えっ?」

「運んでやるよ、オジョーサマ」




状況を理解するよりも先に、私を慣れた手つきで抱えあげた真弓は、すたすたと移動していく。

それで、すとん、とベッドの上に降ろされた。



「え、えと」

「目ェ瞑れ。そんで、大人しく寝ろ」



目を白黒させていると、真弓に命じられる。

それでも、戸惑ってもぞもぞと動いていると、真弓が同じベッドにもぐりこんでくる。ひとつの毛布のなか、少しでも身じろぎすれば簡単に触れてしまう距離。



「……!」



ごろり、と寝返りをうつと、真弓の顔が真正面に現れて、ほんとうに息が止まってしまうかと思った。心臓に悪い。


全然眠くなさそうな真弓は目をぱっちり開いて、なぜかじーっと視線を合わせてくる。

これじゃあ、眠気も吹っ飛んでしまう。全然、ぜんぜん落ちつけない。




「ま、真弓、あっち向いて……」



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