花鎖に甘咬み
ぐいーっと真弓の胸板を押しやると、真弓はとがめるような視線を私に向けた。
「はあ? なんでだよ」
口調が、ちょっと不機嫌だ。
「だって、なんか……落ちつかない、見られてるとそわそわする……っ」
「なんだそれ」
「なんだそれじゃないよ、こっちとしてはシカツモンダイなんだからっ、眠れないんだからっ」
ぐいぐい真弓のことをベッドの隅に追いやっていると、真弓の大きな手のひらが私の両手首を捕まえた。まるで、手錠をかけるみたく、ひとまとめにされてしまう。
「わかった、俺が見えなきゃいいんだろ」
「な……っ、わっ!」
捕まえられた手首をぐいと引き寄せられる。
勢いあまって体ごと飛びこんだ先は、真弓の腕のなか。
目の前には真弓の胸が広がっていて、たしかに、これじゃあ視界は真っ暗で、なにも見えない、けれど……!
そういうことじゃない、むしろ抱きしめられているような状況に、心臓が簡単に落ちついてくれるはずもない。……けれど、真弓の体温があったかくて、離れがたくて、反抗する気力を一瞬で失ってしまった。
「ちとせ」
「……ん」
やっぱり、安心する。
〈猛獣〉 と称されるこのひとのそばが、世界中のどの場所よりも、いちばん。
睡魔に飲み込まれて、結局3秒で眠りに落ちた。
「おやすみ」
直後、真弓が私の後ろ首に噛みついた────ような気がしたけれど、これは、きっと夢のなかの話。