竜王陛下のもふもふお世話係~転生した平凡女子に溺愛フラグが立ちました~
 リンダによると、ラングール国では舞踏会が開催されることは滅多にないので、竜人の貴族令嬢にとってそういう場所でメイドになることは若い貴族の独身男性との貴重な出会いの場であるらしい。特に、竜王がいる皇宮区の侍女役は特別なステイタスのようだ。

(舞踏会、か。遠くから、ちょっと見てみたい気もするなぁ)

 ミレイナはその様子を想像してうっとりする。

 舞踏会など、前世でも今世でも物語の中でしか見たことがない。
 前世のロマンス映画で見たような豪華絢爛なダンスホールで男女が踊るのだろうか。

「でも、なんで滅多にやらない舞踏会を開くの? なにかのお祝い?」
「それはね──」

 リンダが喋りかけたところで立ち止まって「あっ!」と声を上げる。

「どうしたの?」
「これ、間違えて持って来ちゃった。私、返しに行ってくるわ。明後日のことはまたあとで決めよう」

 リンダがポケットから抜いた手には、少し黒ずんだ金属製の鍵があった。ミレイナも見覚えがある、掃除用倉庫の鍵だ。

「じゃあね、ミレイナ!」

 リンダは大きく片手を振ると、足早に元来た廊下を立ち去って行ったのだった。


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