竜王陛下のもふもふお世話係~転生した平凡女子に溺愛フラグが立ちました~
「では、ここにサインを……」

 目の前の男が書類の空白欄を指さし、ジェラールにペンをペン立てごと差し出す。ジェラールはその書類に目を通し、眉を寄せた。

「なぜアリスタ国側の責任者が国王ではない? こちらは国王がきているのだから、そちらも国王が出るのが筋だろう?」
「恐れ多くも、私はこの地を治める辺境伯として、ラングール国との交渉の全権を任せられております。つまり、私の言葉は国王の代弁、私の行為は国王の代行です」

 目の前の男の慇懃無礼な態度に、ジェラールは内心で苛立った。ラルフが事前に言っていたとおり、無礼な男だ。

 普通に考えれば、和平のためにわざわざ出向いた竜王に対して国王が出迎えないなど、あり得ない話だ。
 しかし、ここで事を荒立たせては、せっかく辿り着いた和平交渉が決裂し、これまでの苦労が水の泡になる。

< 290 / 319 >

この作品をシェア

pagetop