竜王陛下のもふもふお世話係~転生した平凡女子に溺愛フラグが立ちました~
 ジェラールは込み上げる怒りを封じて、そのペンを取ると文字を走らせた。

「ありがとうございます。これでつつがなく調印式は終了です。では、親愛の証に酒を」

 辺境伯が背後に向かって片手を上げると、後ろに控えていた陰気な男が部屋のドアを開け、外に立っていたメイド姿の女性が二つのグラスと果実酒を運んできた。

「この地域でとれる葡萄を使用した、名産の酒です」

 辺境伯がそう説明する酒は、血を思わせるような赤色だった。並々とグラスに注がれ、ひとつがジェラールへと手渡される。

 そのときだ。
 僅かだが、魔力が弾けるような空気の揺れを感じた。しかも、自分がかけた防護魔術に酷似したものが。

(……ミレイナ?)

 ジェラールはハッとして窓の外を見る。
 しかし、三階であるそこからは白い雲が浮かぶ青空と、背の高い木々の葉しか見えない。

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