月の舞踏会
 仮面の演説を肯定するかのように、文字盤の舞台に星が降った。

 真っすぐ落ちていた炎は、誰かを焦がすことない燈になった。

 それは後夜祭。

 手に手を取って名残、楽しみ、耽る、青春を彩る儚いパーティ。

 彼女は、そんな風景から目を背けた。
 踊っていかないのかね、問うペルソナ。
 少女は首を振った。

「私は、此処に留まりたくない」

「彼らと踊る気はない、と」

「先を急ぐ」

「何処に行くのかもわかっていないのに?」

 ふふっ、笑うペルソナ。

 嘲笑ともとれる笑みに、少女は気分を害していない。

 気にしていないのではなく、悪意も害意も敵意も、暗い思いを知らない。

 少女はただ、無垢だった。

「私は、何処に行けばいい」

 怪しげな男に、面と向かってそう返せるほどに。
 おや、とペルソナは表情を変えた。無論、仮面だが。

「頑なかと思えば純粋だ、君は。いや、自分に正直なのだろう」

 要らない誘惑を断ち切り、

 阻害する思いに屈せず、

 頼ることに卑屈にならず、

 何色と交ざっても自分であり続ける、そんな少女だ。



 すっ、ペルソナが指差した。

 黒い指が指す向こう。

 夜空に瞬く光の宝石。

 誰も届かない至る場所を。

 ペルソナは指差していた。


「あそこまで上りたまえ。
 君が行くべき道しるべだ」

「……月に、昇るのか」

「無理かね?」

「サンキュ。」

 少女はフランクに礼を言う。

 そのまま、指し示された方へ。月を追い掛けて歩きだした。



「行きたまえ、友よ。
 君が辿り着けるときを、
 私は信じよう」


 高くマントを翻し、
 ペルソナは消えた。

 幻想に彩られた灯りの中、
 文字盤の主達はいつまでも踊っていた。



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