月の舞踏会
箒星のタンゴ
 土を破りボウボウと立ち上がる菜の葉っぱ。空も月も星も隠してしまう大きな草城。
 立ち塞がる葉を懸命に退かして、少女は謁見するために入城したが。

「……行き止まり?」

 入った途端、広がる壁。
 入口と同じ草製だが、下から天井まで一切の隙間がなく、どうにか通れるという代物ではない。

「三回……」

 それが蝶々の助言だった。
 灯り一つない場内に目が慣れると、左右に広がる真っ暗闇の回廊。
 この道が繋がっているなら、確かに三回廻れるだろう。

 何があるかもわからない。
 誰がいるのかもわからない。
 どうなってしまうかもわからない。

 わからないことだらけの場所で
 飲み込まれそうな闇へ
 誰が簡単に足を運べるだろう。

「…………よし。」

 細い指先が汚れている。
 白かった指と爪は、菜の石灰で緑に染まっていた。

 立ち塞がる壁には一本の線。

 少女が刻んだ道しるべ。

「それじゃ行こう」

 壁に手をついて歩きだす。
 迷路かもしれないという配慮。

 進む足取りに震えはない。

 怖くないはずがない。
 恐くないはずがない。
 強くないはずがない。

 前を歩くことに必死なだけ。

 転んだら立ち上がる。
 泣いたら笑う。
 唯それだけのこと。
 怖くても歩く。
 立ち止まってしまうことのほうが、少女はイヤなのだ。

 ついた手が汚れても。

 転んだ膝が痛くても。

 誰もいなくて、淋しくても。

 少女は
 独りで歩き続けた。





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