君が君だから俺は君に愛を告げる
隣に
それから、5年半程が経ち、俺は経営企画部の主任として頑張っている。そこへ、この春、下のフロアが手狭になったとかで、佐山のいる広報部が俺がいる経営企画部の隣に引っ越して来た。

これはチャンスだ!

そう思った俺は、ことあるごとに佐山に話しかけるが、今のところ毎回不発。


 今日も、俺がカコンと缶コーヒーのプルタブを持ち上げたところで、後ろから、佐山の煮詰まった声が聞こえた。

「ああーん! もう、分かんない!!」

おおかた今度ある創業百周年事業の社内コンペの件でイライラしてるんだろう。

俺は、すーっと椅子のキャスターを滑らせて、佐山に近付いた。

「くくっ
相変わらずだな、佐山(さやま)。ほら、これやるから落ち着けよ」

俺は、今、開けたばかりの缶コーヒーを佐山に差し出す。けれど……

「いらないわよ。こんなの」

呆気なく、突き返された。

「なんだよ。人がせっかくやるって言ってるのに。あ、もしかして、間接キスとか気にしてる? これ、開けただけでまだ飲んでねぇから、安心しろよ」

俺はそう言ってみたものの、

「っ! そんなの気にしてないし‼︎ とにかく、これはいらないの!」

と、彼女の機嫌をさらに損ねただけだった。

そうか!
昔、佐山の飲んでたカクテルも甘かった。こいつ、男勝りな態度してるけど、実は甘党なんじゃないか?缶コーヒーがブラックだからいけないのかもしれない。

俺は、今度は、引き出しに残ってたチョコレートを差し出した。

「ほら」

「何、これ?」

「何って、チョコだけど?」

ひと目見て分かるパッケージだと思うんだけど、なぜか佐山は怪訝そうに首を傾げる。

「これ、どうしたの?」

「ん? バレンタインの残り」

甘いものはそんなに得意じゃないんだけど、せっかくもらったから、いつも残業のたびに少しずつ食べてた。でも、それでも食べきれないくらいある。

「はぁぁぁ!?
意味、分かんない。何で、そんなことできるの?」

なぜか佐山は、ぶち切れてる。

なぜだ?

「何で? 別に俺がくれって言ってもらったわけじゃないし、向こうが勝手に押し付けたものを俺がどうしようと俺の自由だろ」

「そうかもしれないけど、私は貰いたくないの‼︎」

そう言って、俺の机にチョコを置いた佐山は、俺を無視するように仕事を再開した。

くそっ!
何がいけないんだ?
うまくいかないな。
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