鎌倉の鳥居先輩【短編】
「こんな世界、おさらばだ」
鎌倉の海、山という贅沢な景色を目に焼き付けた後、確かに私はそう呟いて、大空を舞ったはずだった。
確かに、浮遊感だってあった。
それなのに、激しく鈍い衝撃を感じるどころか、地面に着地することすら叶わなかったらしい。
その理由としては、いつの間にやら、見知らぬ男子生徒に、米俵の様に私は担がれていたのだ。
「え、何……あなた、誰ですか」
私が尋ねると、彼はゆるりとこちらを向く。
思わず、息を呑んだ。
「──鳥居、先輩……?」
驚きを隠しきれずに居ると、鳥居先輩はにっこりと微笑む。
鳥居先輩と言えば、学内でも人気の高い人。
容姿端麗、いつも優しい笑顔で、何を考えているのか分からない人。
そんな人に担がれている私。
この状況、女子から更に、反感を買いかねない。
これ以上は、避けたかった。
「離してください……! 下ろして」
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