「指輪、探すの手伝ってくれませんか」
下心たっぷりミルクティー
名誉の為に言っておくけれど、絆されたわけではない。
「ちょっと詩乃!朝のあれ、どういう事よ!」
三連休明けの火曜、ランチタイム。社内で一番仲のいい最悪の一週間を知る同僚の沼津優美が興奮気味に詰め寄ってきた。
朝のあれ、というのはおそらく、志乃宮さんと共に出社した事だろう。
「あー……あれは、まぁ、かくかくしかじかで」
「実際にかくかくしかじかを言ったって分かるわけないでしょお馬鹿」
どうもこうもない。話せば長くなるからご飯を食べようと遠回しに言えば、何故かお馬鹿呼ばわり。解せぬ。
お弁当箱の中央で偉そうにふんぞり返っているタコさんウインナーを口に放り込みながら、同伴出勤の発端となった土曜の朝を思い返す。
「告白、されてさ」
「え」
「断ったんだけどさ」
「え」
「でもごねられてさ」
「え」
ぐすぐす、ぐすぐす。好きだの取られたくないだの喚いたあと、手は離されないままお互いに黙り込んでしまっておよそ一時間ほど続いた膠着状態。何か突破口はないものかと、何となく「別に誰も私の事なんて取りゃしませんよ」と呟いたのがいけなかったのだろう。ぐすぐすがぴたりと止んで「あなた何言ってるんですか」と音もなく伝えてきた潤んだ薄茶色を私は未だに忘れられていない。
「……香嶋さん、いるじゃない?」
「あー……同じ部署の?詩乃、大学が一緒だったって言ってたよね」
「そそ。その香嶋さんがさ、何か私を狙ってるから、取られたくないんだって言われて」
「あー……」
「いや香嶋さん新婚でしょ何言ってんですか、って言ったら、あの人離婚調停中ですよ、って返されて」
「あー……」
飲み会で嫌な絡み方をしてきた新婚クズ野郎、改め、先輩社員の香嶋さん。志乃宮さん曰く、香嶋さんは結婚四ヶ月目にして嫁の浮気が発覚し、早々に弁護士を挟んでの離婚調停となったのだとか。そしてそんな時に、在学中から密かに狙っていた私の破局を耳にし、先日のあの飲み会で持ち帰る!と同期達に宣言していたらしい。
シンプルにきもい。
確かに酒の席での絡まれ率は高かったけれど、普段そんな素振りなんてなかったから、にわかには信じられず「いやあり得ないですよ」と言い切ってしまったのが、決定打となった。