「指輪、探すの手伝ってくれませんか」

 ガシャコンッと派手に音を立てて転がり落ちてきたミルクティーが、香嶋さんの手によってそこから拾い上げられる。

「……あの、話……って……何ですか」

 ほらよと差し出されたミルクティーを受け取って、渡してくれた事と奢ってくれた事へのお礼を述べれば、「ん」と短く返事をして香嶋さんは自分の手の中にある缶コーヒーをぷしゅりと開けた。
 いや「ん」じゃなくて。
 なんて言えるはずもなく、右にならえでミルクティーを開け、ぐびりと一口飲む。甘ッ。
 昔から、それこそ大学生だった時から、こうしてたまにジュースを奢ってくれたりしているのだけれど、甘い飲み物はあまり得意じゃないと未だ言えずにいるのはここだけの話だ。食べ物は平気なんだけど、液体になると途端にダメになるのは私自身にも解けない謎である。

「……俺さ」
「あ、はい」
「好きなんだけど」
「あ、は…………い……え?」

 甘い。甘ったるいなぁ。
 脳内で独りごちりながらちびちびとそれを啜っていれば、脈絡なんてもんは皆無な発言を手榴弾が如く放り投げる香嶋さん、改め、離婚調停中なクズ野郎。
 目の前で何故か照れ臭そうにしているこの男が「あ、そのメーカーのコーヒー美味しいですよね私も好きですてか今さらなんですけど私ミルクティーとかよりコーヒーのが好きなんですよね~」だとか、そんなちゃちな誤魔化しが有効な人間だったならばどれほど良かっただろうか。アピールなんて可愛いもんじゃない超ド直球のストレート。ひくりとひきつる口角を何とか誤魔化して、私は音を吐く。

「……香嶋さん、ご結婚されてますよね」
「離婚調停中。だから、それが終わったら俺とつ」
「付き合いません」
「……」
「付き合いません」
「……何で?」
「そもそもおかしいじゃないですか。そんな風に別の女をすぐに好きになんてならないでしょう」
「……すぐ、っつうか、まぁ大学ん時からだし」
「…………は?」
「お前、男いただろ。だからまぁちょっと諦め入ってたし。俺が卒業してからお前が入社するまで、連絡とかほとんどしてなかっただろ」
「……」
「……タイミングの問題だろ。でも、俺はもう離婚するし、お前だって男とわか」
「……無理です」
「……何で、」
「無理です」

 あなたも、私じゃなくったっていいんでしょう。
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