「指輪、探すの手伝ってくれませんか」
大事な事だから必要とあれば何度でも言う。これは、絆されたわけではない。
「嫌い、でしたか?」
「……え?」
「アヒージョ」
「……いや、好き、です」
暖色の光が照らす、ミディアムレアの牛肉、海老のアヒージョ、赤ワイン。眼前に並べられたそれはどれも私の大好物だ。けれども一向に喉を通らないのは「初デートですね」と微笑んで花を撒き散らした彼とのこの現状を良かれと思っていないからだろう。
「お腹、空いてなかったみたいですね」
クソ野郎だのクズ野郎だのと散々なじった。けれども一番クソでクズなのは私だ。口では嫌だ無理だと断るくせに、理由があればそれを受け入れて正当化する。
断れたんだ。香嶋さんのは勿論、志乃宮さんのだって賭けをする必要は一欠片もなかった。賭けに負けるなんてこれっぽっちも思っていなかった、なんて、言い訳でしかないけれど、おいしい話だと思ってしまった故の愚行だ。ネカフェとコインロッカーとの往復をやめたかった。勝ち目しかない賭けを楽しんでいる間に新居を決めれるラッキー!だとか思ってしまった。
「でも、賭けは僕の勝ちなので」
絆されたわけじゃない。だから当然、情だってない。
彼は単なる同僚だ。それ以上でもそれ以下でもない。なのに、寝床を確保したいからと賭けにのって、あまつあさえ負けてしまって、好きでもない、友愛すらない人と付き合う事になった私は「お互い相手がいるから丁度良かった。ほんの出来心なんだ」と言い訳を並べ立てた浮気野郎とどう違うのだろうか。「セックスに興味があっただけだ」と私の色んな初めてを恋心と共に奪ってゴミクズが如く捨てたあの男とどう違うのだろうか。
自分の欲望を優先して相手を利用するなんて。自分だって過去にそれで傷付いたというのに。
「……はい。約束は、ちゃんと守ります」
最低だ、私。