「指輪、探すの手伝ってくれませんか」

 増え続ける罪悪感。過去をやり直せるならやり直したい。まぁそんな事、願うだけ無駄なのだけれど。

「駄目です!」
「ダメじゃないです。今日からは私がソファーで寝ます」
「駄目です!」

 初デートという名の夕食を終え、たどり着いた志乃宮さんの家。当然のように食事代もタクシー代も出してもらって、寄り道したコンビニでちょっと高めのデザートを二つも買ってもらって、三連休の時と同じようにお風呂も先に入らせてもらって、ドライヤーだってしてくれて、その上ベッドまで譲ると言われて、マジすかありがとうございますで済ませられるほど私の神経は図太くない。そりゃ、三連休中はお客様だからとか僕が提案した事だからとか何とかで言葉に甘えさせてもらったけれど、賭けに惨敗した身でそんな贅沢を味わってはいけない。何なら飲み会の会費だってまだ返せていないのだから。
 そもそも、だ。私の身体はソファーで横になれるサイズだけど、志乃宮さんは確実に膝から下がはみ出る。実際、三連休中だって朝起こしに行くと上半身か下半身のどちらかが床に落ちてたわけで、本来なら考えるまでもなく私がソファーで志乃宮さんがベッドで寝るべきだろう。志乃宮さんが家主なわけだし。

「だから!身体のサイズ的に志乃宮さんがソファーで寝るのは無理でしょう、って何回言わせるんですか!」
「無理じゃないです!寝れます!」

 なのに、この男は頑として自分の意見を曲げない。ここにきて意外な発見とでも言うべきか、端的に言えば頑固の一言に尽きる。いつもにこにこして「あ、大丈夫ですよ~」とか「あ、平気ですよ~」とか「あ、分かりました~」とかしか言わないイエスマンな印象だったから、割りと強めに言えばすんなり頷くと思っていた。戸惑いが隠せないながらも必死に応戦しているのだけれど、この押し問答の終わりは一向に見えない。

「あー!もう!なら一緒に!寝ましょう!ベッドで!」
「っ、え、」
「私は!」
「は、はいっ」
「賭けに負けたんです!惨敗です!敗者なんです!」
「え、う、あ、はい」
「勝者で、しかも家主である志乃宮さんをソファーで寝させて自分だけベッドでぬくぬく寝るつもりはありません!断じて!ありません!絶対!絶対に!です!」
「は、い」
「なのに志乃宮さんはそれを承諾してくれない!ずっと、ずっとずっと!同じ事の言い合いじゃないですか!それって時間の無駄じゃないですか!」
「……はい……それは、す、みません、」
「だから!」
「っ」
「寝ますよ!もう!二人で!ベッドに!」

 しゃらくせぇ!とばかりに志乃宮さんの手首を掴み、勢いよく寝室の扉を開けた。
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