「指輪、探すの手伝ってくれませんか」
やっちまった。
右手を額に当て、俯き、はあぁああと息を吐き出す。
「志乃宮さん」
「はい」
「やっぱりダメですよこれ」
「……これ?」
「やめましょう」
今さら感は否めない。だがしかし、こうして話を聞く限り彼は色々なものを失ってばかりではないか。こんな、賭けに負けたからと付き合ような女に、付き合っているからまぁ別にと抵抗なく股を開く貞操観念がそこまで高くはないような女に、彼の初めてとやらは奪われていいものではなかったはずだ。
だから!そう!やめましょう!
きっぱり、はっきり、そう言い放てば、それまで大忙しだった志乃宮さんの顔から表情というものが消えた。
「……僕、下手、ですか……?」
「……は?」
「……僕が、下手、だから、」
「……え?」
「僕では、まっ、満足、出来ないから……だから、わっ、わか……っ」
「おいちょっと待て」
私は、痴女か何かか。
下手だから、満足出来ないから、やめたい別れたいと喚くような女だと思われているのか、私は。
「……あのですね、志乃宮さん」
一拍、間を置いて。
「わた……っ、」
「……え、と。僕のではないです、ね」
そういう意味で言ったわけではないと、誤解を解くべく口を開こうとしたまさにその瞬間、ぴりりりとそこそこの大きさの音が室内に鳴り響いた。
スラックスのポケットから携帯を取り出し、画面を見た志乃宮さんはふるり、首を振る。という事はつまり、そう、そういう事だ。
音の長さから察するに、おそらく着信だろう。しかし時間も時間だ。日付はまだ変わっていないがあと数分で変わる、そんな時間帯。そもそも私の携帯はカバンの中で、そのカバンは玄関を入ってすぐのところに置きっぱなしだ。普段なら面倒でも携帯を取りに行くし、どんな時間だろうと何の躊躇いもなく出るのだけれど、今は無理。
「出た方がいいですよ、御来屋さん」
「いえあとでかけな」
「こんな時間に掛けてくるなんて急用ですよきっと。だからもうこの話しは終わりにしましょう。ささ、どうぞ出てください」
「いや何勝手に終わらせてんですか」
無視だ、無視。