「指輪、探すの手伝ってくれませんか」
何か、疲れた。
もういい。今日はもう寝よう。
「…………くそが、」
そう思って蹲っていたそこから立ち上がろうとすれば、またしてもぴりりりと鳴き出した携帯と呼ばれている四角い物体。
なんなの。悪態を飲み込んだつもりで、チィッ!と舌打ちをまたひとつ。【母】と表記されたそれに応えたが最後、とてつもなく面倒な事にしかならないのは目に見えている。
ぴりりり、ぴりりり、ぴりりり。
鳴り止まないそれを再々ミュートにするも、結局はいたちごっこ。アラームなしじゃ起きれない私は電源切るという選択が出来ない。よって、堪えるか出るかの二択となるのだけれど、玄関に向かった時から今この瞬間さえも進行形で背中に突き刺さる視線を中断させる為には出るしかなさそうだ。
くるり、振り替えれば、上半身だけをくてりと曲げて扉の枠からはみ出している志乃宮さん。ばちりと視線が合った瞬間、見つかった!どうしよう!みたいな顔をしてわたわたし始めたけれど、何も言うまい。
「志乃宮さん」
「はっ、はいっ」
「母が、ちょっとしつこいので、ここで話しますね。長くなりそうなので志乃宮さんは先に寝てて下さい。続きは明日話ましょう」
「あ、はい。いやでもあの、玄関じゃなくてリビングで電話を」
「いえ、ここでいいです」
話、聞かれたくないので。
「私、声大きいので」
なんて、本心をぺらりと喋るわけにもいかないので、にこりと上っ面を被る。一瞬、納得がいかないとでも言いたげな表情を浮かべたけれど、特に食い下がられる事もなく「シャワー、浴びてもいいですか?」と何故か自分の家なのにおうかがいを立ててくる彼の背中がバスルームへと吸い込まれるのを「どうぞどうぞ」と笑って見送る。
ふう、と息を吐けば、またしても鳴り始める四角い物体。便利だけれど、煩わしい。すい、とディスプレイの上で指を滑らせて物体を耳へと近付けた。