「指輪、探すの手伝ってくれませんか」

「しつこいよ、お母さん」
『出た!やぁっと出たのね、詩乃ぉ』

 出るまでかけ続ける気だったのか?
 そんな疑問が浮かぶと同時に、一晩中鳴り続ける携帯を想像して、ゾッとした。病むわ。

「あのさ、お母さん、」
『ねぇ、詩乃。お母さん、真剣よ』
「……」
『あなた、貴明(たかあき)くんと別れたじゃない?』
「まぁ、うん」
『家も燃えたじゃない?』
「まぁ、うん」
『だからね、お見合いしないかなって、思ったのよ』

 いや、分からん。
 浮気野郎と別れたからって何故見合いなのか。
 確かに結婚適齢期の娘が、結婚どころか彼氏だった男と別れた挙げ句、家が燃えただなんて聞かされたら心配するのは分かる。分かるし、心配自体は嬉しいけれどもそれはそれ、これはこれ。

「しないってば」
『でも今はお付き合いしてる人、いないんでしょ?』
「……」
『あら、いるの?恋人、出来たの?』
「……いないよ、」

 いる。もしくは、出来た。嘘でもいいからその一言を言えば、お見合いの件は免れられるだろう。事実、いるにはいるのだ。期間限定だけれども、恋人という肩書きを持つ男が。でも、言えない。志乃宮さんとの関係が始まって、使わずに済んだ敷金を返した時だって両親に彼の事は言えなかった。
 一年経ったら別れるけど今の恋人です。なんて、誰が言えようか。安心どころか余計に心配をかけてしまうのは目に見えている。

『だったら、』
「けど!」
『……』
「お見合いは、しない」
『……詩乃、』
「心配かけてる自覚はあるよ。でも、お願い、お母さん。今は、そっとしておいて欲しいの」

 小さく、バレない程度に息を吐く。
 どの口が言うんだかと自身にツッコミながら『分かったわ』の返答を合図に通話を終えた。
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