「指輪、探すの手伝ってくれませんか」
口説く、なんて、時間の無駄だ。
そもそも、恋人がいると分かっている相手を、その恋人すら巻き込んで口説こうだとかどうかしてる。
それに、そういうのは私の地雷だ。別に元彼に未練があるわけじゃないけれど、された側としてはそれに類する事や繋がりそうな事にやはり不快感が拭えない。使い捨てのおしぼりを持ってきた店員さんにウーロン茶をふたつお願いして、視線を倫理観の乏しい男へと向けた。
「で、何のご用ですか、作楽さん」
「もー今はプライベートなんだしさぁ、てつでいいじゃん詩乃ぉ」
「プライベートであなたと関わる気は一ミリもありません。志乃宮さんまで巻き込んで本当、頭オカシイんじゃないですか?」
「……詩乃がちゃんと俺に応えてくれてれば、巻き込んだりしてねぇ」
「前提がオカシイって事に気付いて欲しいんですけど」
「何で?」
「…………は?」
きょとん。この単語が今、世界で一番似合うのはこの男だろう。そう思えるほど、私の言葉が理解出来ないと言わんばかりに首を傾げるこれはおそらく演技ではない。「お待たせ致しましたー!」とウーロン茶をふたつ持ってきた店員さんの元気な声で、会話はそこで中断されてしまった。
「何でもくそもないんですよ、作楽さん」
「いやだってさ、詩乃、」
「だってもくそもないんですよ、作楽さん」
とはいえ、終わったわけではない。気を取り直してウーロン茶を、一口飲んでから話を続けると、テーブルを挟んだ向こう側にいる男はへらりと笑う。
「瑛の事、親に言ってねぇじゃん。詩乃は」
「……」
「タカアキくん、だっけ?元カレ。そいつの事は紹介したのに瑛はしてねぇって事は、そういう事だろ」
「……何……そういう事、って、」
「先、見据えてねぇだろ」
「……」
「……」
「……」
「ほら、図星」
なかなかの、攻撃力だ。