「指輪、探すの手伝ってくれませんか」
恋人が居る。なのにその存在を親に明かさない。
それだけならば、当人達の事情やらタイミングやらがあるのだろう、で済む話なのだろうけれど、今回は違う。見合いだ、見合い。それを親に意気揚々と勧められたにも関わらず頑なに明かさない。となれば、それを「見据えてねぇだろ」と指摘されるのは当然と言えよう。もっとも、私としてはその考察力をプライベートではなく仕事で発揮してもらいたいのだけれど。
「だからさぁ、詩乃ぉ」
「……何」
「俺にさぁ、チャンスくれても良くね?」
「……チャンス?」
さぁ、どう返そうか。
向かい側でジョッキ片手に「そう、チャンス!チャンスチャンス!欲しい~!」と騒ぐ馬鹿を見ながら思案する。
一年だけ。初めから期間限定の関係をわざわざ親に報告するほど私だって考えなしではない。だからといって「そうそう!一年ぽっきりで別れるんだ私達。大正解!」だとか言うわけにもいかないし、言いたくない。今さら感は否めないけれど、馬鹿の指摘を否定しようか。こちとら浮気されて別れた過去があんだよ慎重になってるだけだわぶぁか、ってな具合に。いや、通じないなきっと。アキラの事を信じてねぇんだなとか言いかねない。というか言う。絶対言う。にやにやしながら言うと思うこの馬鹿は。
「だからさ!な?デートしようぜ、デート!」
参ったな。言い訳が思い付かないぞ。そう思うのが先か、ダァン!とジョッキがテーブルに着地したかと思えば、身を乗り出して物理的に距離を縮めてきた馬鹿が満面の笑みを浮かべて音を吐き出す。
いや、しねぇわ。馬鹿なの?
瞬時に浮かんだそれを頭から喉へと移動させるのはとても簡単な事だったけれど「ちょいとお待ちよあんた」と脳内で小さな私が語りかけて来たのでやめた。
「デート?」
「そ」
「して何になるの」
「現在を知れる」
「……」
「お互いの、な」
「知って何になるの」
「選択肢が増える」
「……」
「あとさ、」
「……」
「それっきりにする」
「……は?」
「デートして、俺を選んでもらえなかった時は、潔く諦める」
「……」
「どう?」
諦める。
その一言が、酷く魅力的に聞こえた。