「指輪、探すの手伝ってくれませんか」
耳が、熱い。
顔も、熱い。
心臓は、痛くて、苦しい。
何だ、これ。なんて、誤魔化して気付かないふりをするほど、私は愚かじゃない。
「てつ、ごめん」
「……してくんねぇなら、諦めねぇよ?俺」
「うん。そこはあんたの自由にすればいいよ。でも、ごめん」
志乃宮さんに向けていた視線を、ゆっくりと動かしてそもそもの発端である男を見た。
「志乃宮さんの事を親に言ってないのは、完全に私の都合。詳しくは言えない。言いたくない事だから。あんたに、先を見据えてないって思われても仕方ないよ。見合いの話が出てるのに私がこんな態度だとさ、そりゃ思うよね。でも、」
真剣な話だと分かったからだろう。視線の先にはもう、笑みはない。
口を挟ませないように早口で吐き出していた音を一度断ち、どくどくと激しくなり続けるそれを誤魔化すように、未だ私の左手を離さない志乃宮さんの手を右手で挟んでやった。
「私の恋人は、志乃宮さん、だから」
ぴく、と右手の下で彼の手が動く。
「先は分からないし、絶対なんて言葉は言えない。それでも、」
すり、と小指の側面を彼の指がなぞる。感触と位置的に人差し指だろうか。次いで、薬指、中指と順になぞられ、そのまま包むように握り込まれたそれを公衆の面前だぞと拒むどころか、私の人差し指と中指は彼の指先を掴む。
「今、私が好きなのは、志乃宮さん、だから」
くそ。
もっと触れて欲しいと、思ってしまった。