「指輪、探すの手伝ってくれませんか」
たがが外れる、とはこういう事を言うのだろう。
「っ……は、ん、」
「……っ、み、くりや、さ、」
二人きりじゃないなら、ご飯くらいは行くよ。
頼んだウーロン茶を飲み干し、諭吉を置き、それを告げ、志乃宮さんの腕をひっぱって店を出てタクシーに乗り、家に着くや否や私からキスをした。
「っあ、あ、」
「……きもち、いい、ですか?みくりや、さん」
「ん、あっ、きも、ち、いっ、」
三月某日、泥酔した志乃宮さんを送り届けたその翌日に彼の言った「我慢出来なくて」が、今は嫌というほどよく分かる。我慢なんて出来ないし、したくもなかった。
唇に噛みついて、舌を絡めて。ネクタイをほどいて、シャツを脱がせて、鎖骨に噛みついて。うっすらと、だけどちゃんと割れている腹筋をついばみながら降下して、ベルトを外して、下着に噛みついてずり下ろしたらあとはもう、本能の赴くままだ。
施錠もしていない玄関先で獣のようなセックスをした。「もっと欲しい」「もっとちょうだい」と馬鹿みたいに乱れた。なのにそれでも足りなくて、全然足りなくて、中途半端だった服を互いに脱ぎ去りながらベッドへとたどり着いて、また、乱れて。
「あっ、んっ、そこ、っい、い、」
「かわい、っ、」
私を揺さぶりながら、私を見下ろす欲にまみれたその瞳にごくりと喉がうねる。その瞳に、その声に、煽られて堪らない。ほんの小一時間ほど前まではただ【恋人という肩書きを持つ人】だったこの男に、どうしようもなく溺れている。
この人が、好きだ。
「っあ、んっ、んっ」
「っ、みくりや、さん、僕……っ、もう、」
ちゃんと、改めて、伝えなければ。そう思うのに、深く口付けられて言葉は奪われてしまう。ちゅ、くちゅ、と口内で卑猥な音が響くと同時に、びくんっと一際大きく彼の身体がはねた。
果てたのだろう。ちゅ、ちゅ、と首筋に可愛らしいキスを何度も落としていく彼の髪をくしゃりと混ぜれば、視線がかちりと重なる。ピロートーク、なんて。今まで意識的にした事はなかったけれど、気持ちを伝えるにはうってつけだ。事後特有の怠さとそこから連鎖して生まれる眠気に抗いながら、言葉を用意した。
「御来屋さん、僕、嬉しかったです」
「……ん……?」
「好き、って、言ってもらえて、」
けれど、それは音にならかった。
「……例え、それが、」
というより、なれなかった。
ふにゃりと笑う彼を見て、ああなんだ、伝わってたのかと安心してしまったから。明確な言葉にしていないのに、伝わっているだろうと不確かなものにあぐらをかいた私は、睡魔に抗う事をやめてそのまま意識を夢の中へと沈ませた。