「指輪、探すの手伝ってくれませんか」
即座に見抜かれてしまったそれに、うぐ、と小汚ない音を漏らせば、「吐け~」とそれはそれは楽しそうに彼女は笑った。さすが、私が火事で路頭に迷う三日前から婚約者との同棲を始めたばかりだというのに「家においでよ」と言ってくれるだけはある。いい意味で彼女はお節介だ。勿論その申し出は丁重にお断りしたけれど。
「いや、うん、あれよ」
「あれじゃ分からんのですよ詩乃さんや」
箸を、止める。志乃宮さんとの関係が賭けによる産物だと知っている彼女だけれど、それが期間限定である事は言っていなかった。無論、それはもう関係なくなっているのだけれど、だからといってぺらぺら喋って良い内容かと問われれば答えは否だ。
「……ふたつ、あって」
「ほぉ」
「……ひとつは、倉橋さん。触るの嫌だし、あと、触られてるのに注意しない志乃宮さんにもちょっと腹立ってる」
「ほぉ」
「……」
「で?」
「……」
「ほれ、吐け」
「…………あと、志乃宮さん、浮気してる、かも」
「…………は!?浮気!?」
「ちょ、声でかいって」
とはいっても、目の前の彼女を丸め込む話術なんて私は持ち合わせていない。詳細を省いて、かいつまんだそれを小声で話せば、ふたつめで優美は目を丸くさせた。
声!と注意すれば、彼女は左手で自分の口を塞ぐ。いやもう遅いけどね。向けられる好奇な目の中で小さくため息をついてから「実はさ」と会話を再開させた。
「……ん~、まぁ、うん、気持ちは分からなくもないけど、多分違うと思うよ」
「……そう?」
「だって、志乃宮さんだよ?あの、志乃宮さん」
ん?志乃宮さんにあのもそのもないでしょうよ。一人しか知らないよ、私。
そんな思考が顔に出ていたのか、口から漏れていたのか、「これだから鈍感女は!」と優美は残り一口のハンバーグを箸で突き刺した。行儀が悪い。
「志乃宮さん、入社当初からあんたにベタ惚れだったの、知らないの?」
「は?」
「うわぁマジかぁ~」
「え?」
「本気かぁ~本気で知らなかったのかぁ~」
「ねぇ待って日本語話してお願いだから」
混乱が渋滞する。
入社当初からベタ惚れ?
誰が?誰に?
あちゃーと言いたげな顔をひっさげて、もしゃもしゃとハンバーグを咀嚼する優美は喉をうねらせ、口内のそれを胃袋直通便である食道へと追い込んでから持っている箸で私を指した。
「とにかく、」
「え」
「大丈夫。志乃宮さんを信じなって」
だから、お行儀!