「指輪、探すの手伝ってくれませんか」

 いや答えになってないんだけど!?
 そう異議を唱えるも「それよりクリスマス、どうするか考えてんの?」と言いながら食べ終えた食器を片付け始めた優美に、これ以上は水掛け論にしかならないなと問い詰める事を諦めた。
 クリスマス。そうか、もうそんな時期なのか。午後の仕事を速攻で片付けて、定時までの余った時間を使って携帯で【クリスマス 恋人 メンズ プレゼント】を検索したりしていたのはきっと私だけじゃないはず。そういえば、こういう、ザ・恋人!って感じのイベントをするのは初めてだという事に気付く。そして不意にわいた疑問。
 志乃宮さんの誕生日って、いつだろう。

「誕生日、ですか?」
「はい。私、知らないなって思って」

 帰りの電車の中で隣に立つ志乃宮さんに単刀直入に尋ねれば、あははと笑いながら「一月二十二日です」と教えてくれた。
 良かった、過ぎてない。そう安堵すると同時に少し心が沈む。知らない。それは、期間限定と割り切って始めた関係だったとはいえ、私の、彼への関心がほとんどなかった証だ。

「……どうか、しましたか……?」
「え、あ、いえ。大丈夫です」

 ふるり、ゆっくりと首を横に振る。頬に注がれる斜め上からの視線に気付かないふりをして、足元へと視線を落とした。
 視界に映る、ヒールの先。視線が落ちると気分も落ちる、なんて方程式は存在しないはずなのだけれど、この数分間で生まれた自己嫌悪と罪悪感がそこから這い上がる事を許してくれない。己の感情を自覚しているか否かでこんなにもメンタルが違ってくるものなのか。
 ううんと唸れば、斜め上から私を呼ぶ声が聞こえた。おそらく唸り声が聞こえていたのだろう。いくらガタンゴトン揺れる電車とはいえ、真横にいれば多少の声ぐらい鼓膜は拾える。心配していますと言わんばかりのその声色に小さくため息を吐いて、ゆっくりと顔を上げた。

「志乃宮さん、私、決めました」
「え」
「今日は、鯖の塩焼きが食べたいです」

 ごめんなさい、志乃宮さん。
 これからはちゃんとあなたの事を知っていきます。
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