「指輪、探すの手伝ってくれませんか」
きょとりとしたあと、「分かりました」と微笑む彼が酷く愛おしく感じた。
「そうだ、志乃宮さん」
「はい」
「クリスマスの事なんですけど」
帰宅して、料理が苦手な私に代わって朝夕は毎食作ってくれる志乃宮さんが焼いた塩鯖を食べて、食後の珈琲をソファに二人並んで堪能しながら、お昼の議題でもあったそれ話題として浮上させる。
「今年って、イヴが土曜でクリスマスが日曜じゃないですか」
「え、あ、はい」
「だから、あの、近場になりますけど、旅行、とか、どうですか?」
「……」
「宿とかもまだ空きがありますし。ほら、これとかどうですか?露天風呂ありますよ」
宿情報が映る携帯の画面を見せながら問う。社会人になればクリスマスだ何だで休みは取れないけれど、土日祝はもとより休みなのでこれを利用しない手はない。あと、私的で申し訳ないのだけれど、元彼との思い出を上書きしたい。
これとか、あとこれも、と画面をスライドさせながら、志乃宮さんはどれがいいですかと再度問いかけようと携帯から視線を上げれば、その先に、何故か申し訳なさそうな表情をした志乃宮さんが居た。
「……志乃宮、さん……?」
「……」
「あ、えと、嫌、でした……?」
どくりと心臓が嫌な音を立てる。
まさか、と脳裏を過ったそれをすぐに他所へと追い出して、その表情を浮かべている理由を探るべく、脳みそをフルで稼働させた。
「……先約、ありました?」
同僚の皆さんもそうだし、会社外での交友関係だって志乃宮さんにもあるだろう。会社外のは全く把握していないのだけれど、先約があるのならばそれは仕方ない事だ。そりゃ本音を言えば恋人である私を優先して欲しい。でも友人だって大切だ。
「すみません。クリスマスは御来屋さんと過ごしたかったので、イヴに、その、家族との用事を入れてしまって」
「そうなんですね。なら、クリスマスにデートしましょう」
「すみません。折角、御来屋さんが」
「先約があるなら仕方ないですよ」
「……でも、」
「でもじゃないですよ。どうしても気にしてしまうなら、クリスマスデートのプラン、考えてくれませんか」
「……デー……ト、の、」
「はい。私はそりゃあもう期待して当日を楽しみにしてますので」
「責任重大ですね」
「そりゃあ勿論」
良かった。目をそらされなかった。
誤魔化しているような様子が見られなかった事に安堵しているのを悟られないように、にこりと愛想を混ぜた笑みを浮かべた。