「指輪、探すの手伝ってくれませんか」

 でも、家族との用事って何だろう?
 疑問には思った。クリスチャンだとは聞いていないけれど、仮にそうならクリスマス当日も教会に赴いたりして私とデートしている暇なんてないはず。とはいえ、それ以外にご家族で過ごす用事というのが知識の乏しい私の頭では思い浮かばない。「用事って何?」軽めの口調で聞けば、おそらく彼は答えてくれるだろう。けれど、聞けない。そんなセリフを吐いたが最後、今後色んな事において詮索してしまう女に成り果ててしまう気がしてならないからだ。
 だって、優美にも言われた。「志乃宮さんを信じな」って。だから、信じる。志乃宮さんを信じる自分を信じるんだ。

「ねぇ優美。そろそろケーキ取りに行かなきゃなんじゃない?」

 そんな風に己を鼓舞したのが懐かしく感じる今日は、週末ということも相俟って例年よりも賑わうクリスマスイヴ。「すみませんが夕飯は食べて帰るので」と相も変わらず申し訳なさそうにする志乃宮さんを「いってらっしゃい」と作り笑いで見送った私と、土曜は出勤しなくちゃいけない婚約者さんを持つ優美は、ちょっとお高めのカフェでランチからのティータイムを堪能していた。

「え、あ、ほんとだもうこんな時間」

 ランチからティータイムまで居座るなんて、お店側からすれば迷惑な客でしかないのだろう。今日だけだから許してねと誰に謝るでもなく心の中で吐き捨てて、伝票を手に取った。ランチはコースだったし、ティータイムに頼んだものも全く同じ紅茶とドルチェ。(あらかじ)め優美の分の代金は貰っていたから「じゃあまた会社でね」と柔らかく笑う優美に「またね」と手を振ってレジへと向かった。

「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」

 変わらないトーンで吐き出される店員さんの声を背中に浴びながら店を出れば、ひゅるりと冷えた風がふく。巻き終えたマフラーを思わずきゅっと掴んで肩を竦た。
 ああ、寒い。視界の中で行き交う人々を見て、ひとりごちる。友達、恋人、家族。色んな関係性を築いているであろう彼らを羨ましいと思うのは、脳みそが恋愛という二文字に誑かされてしまったからだろう。ふぅ、とため息をひとつ吐く。

「…………え、」

 唇の隙間から漏れた白いそれを何気なく視線で追えば、人混みの向こう側で見覚えのある横顔が見えた。
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