「指輪、探すの手伝ってくれませんか」

 そんなもの、要らない。

「御来屋さ……いえ、詩乃さん」

 そう言って突っぱねるつもりだった。

「僕と、結婚してください」

 別れ話なんて、シンプルに「別れましょう」「そうしましょう」が一番いいに決まってる。なのに、甘ったるい液体を流し込んで胃袋を虐めている私より機嫌を取ろうと躍起になっている男の方が口を開くのが早かったせいで、頭の中が真っ白になった。

「………………は?」

 一体、何の、話だ。
 もうほとんど残っていない(から)に近いマグカップを一旦テーブルに置いて、再び視線を男の手元へと移す。
 手のひらの中で、ぱかりと開かれたベルベット。その真ん中で鎮座している円形のそれは、取り出して確認するまでもなく指輪なのだろう。
 つまり、そうか。これはプロポーズで、私はプロポーズをされた、という事になるのか。

「………………結婚……?」
「はい」
「……私と……?」
「はい」
「君、が……?」
「はい」

 ぶちり。
 頭の中で響いたその音は、二十六年生きてきて初めて聞こえたんじゃないかなと思う。

「っざけんな!!」

 衝動のままに振り上げた右手。言葉を吐き出しながらそれを斜めに振りおろして、ベルベットも、ベルベットが守る円形のそれも、視界の中から追い出した。
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