「指輪、探すの手伝ってくれませんか」

 ソファーから立ち上がり、身体ごと志乃宮さんの方へと向き直る。

「っ私が!」
「っえ、あ、」
「何も知らないとでも思ってるんですか!」

 レンズの奥の薄茶色を丸くして、口は半開き。ぽかんという表現がぴったりなそれを(たずさ)えたまま私を見上げるそれさえも、今の私にとっては怒りを増長させる材料でしかない。

「あなたが、志乃宮さんが私のいないところでこそこそしてたの、気付いてましたから」

 バレなければいいとでも思っているのだろう。確かに知らなければ、彼の不貞を知らない私だったならば、泣きながら頷いて、弾き飛ばしたあの円形を薬指にはめていたに違いない。
 でも、私は知っている。私にプロポーズをしたぐらいだから、あの(ひと)とはもう関係を断ったのかもしれない。そう考えれば昨日の【お泊まり】は最後だからとねだられでもして、彼はそれを叶えてあげたのだろうなと容易に想像がつく。だからといって、何もなかった事になんて出来ないし、させない。

「っだ、から!」

 世の中には、好きだから許せる、という人もいるのだろうけれど、私は逆だ。好きだからこそ、許せない。

「……っ、しない!君と、結婚なんて、っ絶対!しない!するわけ……っないでしょ!」

 許せないんだ、絶対に。
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