「指輪、探すの手伝ってくれませんか」
くたばれくそ野郎!
「…………さむ、」
そう叫んで、部屋着のまま携帯も財布も何も持たずに履き潰したペタンコのスニーカーでマンションを飛び出してからどれくらい経っただろうか。
無我夢中で走っている時には感じなかった朝特有のまとわりつくような湿気と寒さにぶるりと身体が震えて、視線の先に捉えた公園のドーム型遊具の中に避難したはいいものの、現在地の分からない私はどうしたものかと頭を悩ませていた。
飛び出しておいて寒いからとすぐに帰るのは何となく癪だった。それに今は絶賛迷子中だ。携帯があればある程度の事はどうにかなったのだろうけれど、ないからどうにもならないし、それを嘆いても仕方ない。
「…………私、何かしたのかなぁ……ねぇ……神様ぁ、」
冷たく湿気ている地面の上で体育座りをして、膝の上に額を乗せ、目を閉じ、ぐすりと鼻をすする。
最初の男は付き合っていると思っていたのが私だけだった挙げ句、十二年経ってから訳の分からない絡み方をしてくるようなゴミクズだった。
次の男は私の親友と浮気した挙げ句、別れた二日後に警察沙汰を起こすようなゴミクズだった。
そして今現在、まだきちんと別れられてはいないあの男は付き合ってたった九ヶ月で浮気した挙げ句、それをなかった事にして結婚を迫るようなゴミクズだった。
「…………っ……ぅ、」
あれ。
ねぇ待って私、ゴミクズとしか付き合ってなくない?
なかなかヘビーな事実に気付いて心が沈む。私という人間は、男を見る目がなさ過ぎやしないだろうか。目頭が熱くなって、じわりと目尻が濡れる。
やだなぁ、やだなぁ。
何が、という明確なものは何もない。けれど脳内はその言葉で埋め尽くされて、家族だって友達だっているのに、世界でひとりぼっちになったような錯覚に陥った。
膝を抱え込むように、ぎゅっと身を縮み込ませて、溢れ出てくる涙を膝小僧に擦り付けて、嗚咽が漏れないように歯を食いしばる。
雪は降っていない。だからこのままここにいたところで、これから気温も多少は上がるだろうし凍死はしないだろう。でもきっと、風邪をひく。そしてそれを悪化させて、肺炎になって、それでそのまま。
「っ、み、つけ、った」
「っ」
「みく、っり、や、さん」
なんてネガティブ丸出し思考を好き勝手に暴走させていたら、呼吸もままならない、細切れた声が鼓膜に響いた。