「指輪、探すの手伝ってくれませんか」
「指輪、探すの手伝ってくれませんか」

 家に、帰りましょう。
 そう提案したのは私だった。

「ひとまず、志乃宮さん」
「……は、はい」
「私、誤解してキレてました。ごめんなさい」
「え……いえ……え……?」

 己の誤解からの勘違いからのキレ散らかした結果が、早朝の公園でドーム型遊具の中でいい歳した大人が身体を縮め込めてあーだこーだ言っているこの現状なのかと思ったら馬鹿馬鹿しくて堪らなくなった。否、こうなった原因の六割くらいは私だけれど、勘違いされるような行動を取った志乃宮さんだって、悪いと思う。
 帰宅をして、交互にシャワーを浴びて、珈琲とココアを入れて、ソファーに並んで座り、話の入り口として謝罪を口にすれば、彼は困惑の二文字を顔に張り付けた。
 おそらく、というよりは確実に、何に対しての謝罪なのか分かっていないのだろう。
 こくりと珈琲を一口飲み込んで、四ヶ月くらい前から気になっていた電話の事、昨日女性といるところを見た事、その時に電話をしたけれど出てくれなかったから浮気だと確信した事、外泊された事、なのに結婚を申し込んできたから感情がぐちゃぐちゃになった事、を順番に噛み砕いて話した。勿論、それに対する謝罪だという事も。

「……電話は、その、姉にからかわれるのが目に見えていたので、すみません。それが嫌で出ませんでした」
「……はは。私、一人っ子だからそういうの想像しずらくて、その(ひと)の前じゃ出れないんだな、っていう発想にしかならなくて、」
「そんな……っ、そもそも僕が、卑怯な事したから、」
「卑怯だっていう自覚はあるんですね?」
「……っ、はい……あり、ます」

 両手で包み込むようにマグカップを持って、しゅんと項垂れるその様は【あざとい】という言葉がよく似合う。小柄でもなければ、ふわふわのきらきらでもないのに、意図せずそれを他者に感じさせるなんて、ベビーフェイスとは、げに罪である。

「でもそれだけ、私を想ってくれていた、って事、ですよね……?」

 あざとベビフェの彼に(なら)って、くてりと首を傾げながら優しく問いかける。すると、彼はチラリとこちらを伺うように目線を上げた。

「……っ、違い、ます、」

 かと思えば、くしゃりと眉根を寄せた。
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