「指輪、探すの手伝ってくれませんか」

 間違いなくこれは肉食系女子に持ち帰られるな。まぁ、ないとは思うけど、万が一にも男に持ち帰られそうだったらその時は護ろう。一応ね、一応。

「着きましたよ志乃宮さん。鍵どこですか、鍵」
「……あー……はい……鍵ぃ……ええと、鍵ぃ、」

 なんて、杞憂だった。
 背中タックルからさらに二時間ほど経ち、会計を済ませた幹事の「二次会に行く人ぉ~」という掛け声を合図に帰宅組と二次会組に別れたところで「みきゅりらさぁ~ん帰りまひょ~」と二度目のタックルを受けたせいで、私の気遣いもとい心配は無駄の二文字に包まれ丸められてしまったからだ。
 そんな私達を見て、帰宅組は「じゃ御来屋、志乃宮頼むな!」と帰路につき、二次会組は「じゃ御来屋、志乃宮頼むな!」と二次会の会場があるであろう方向へとぞろぞろ歩き出したものだから、怒りの矛先をどこに向ければいいのやらと数分悩んだのはここだけの話。
 いや私、今日の寝床を確保しないといけないんですけど!なんて言えないし、だからといって道端に酔っ払いを捨て置くわけにもいかないから泣く泣くタクシーに乗った八分前。タクシーに乗って簡潔に行き先を告げた志乃宮さんは船を漕ぎ出して、そのおかげなのかは知らないが、呂律は割りと戻って来ていた。

「ん、んん、あれぇ……鍵ぃ、」

 だがしかし。自宅の鍵は見つけられないらしい。参ったなと思えどもタクシーは既に発車していない。二千円以内だったとはいえこれ以上の出費はマジで泣けるからと歩いて寝床を探そうと決めた覚悟が早くも崩壊しそうだ。

「志乃宮さん、カバン、触りますね」
「……えー……あー……はい」

 つうかさっきからスラックスのポケットしか探してないんだよなこの人。そこにないなら他にあるんでしょうよ。
 若干の嫌味を含ませてわざとらしくため息を吐く。馬鹿な子ほど可愛いとか何とか言うけれど。

「……あ。それねぇ、それねぇ、いちご味。僕……好きなん、です」
「……そういやたまに何かもごもご食べてましたね」
「んん……?あれ?バレてる……?」

 おかしいなぁ~なんでぇ~?
 なんて、カバンを漁る私の手元を見ながらくふくふ笑う彼を見て、ああ確かにと納得してしまったのは一生の不覚とも言えよう。
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