Summer Day ~夏の初めの転校生。あなたは誰?~
5月のグランド
放課後のグランド
サッカー部のジャージに着替えた奈津とまなみは、この4月からマネージャーになったばかりの1年生、詩帆ちゃんとドリンクの準備をしていた。詩帆ちゃんは幼い頃からクラッシックバレエをし(高校入学と同時にやめてしまったらしいが・・)、中学校でも合唱部に入っていたという、サッカー部とは縁遠い本当に女の子らしい女の子だ。奈津もまなみも何でこんな女の子が汗臭いサッカー部のマネージャーになってくれたのか、今でも不思議でしかたない。年がら年中日に焼けてきた奈津とまなみとは違って、色白で透明感のある彼女の存在は、俄然、部員たちのやる気を引き出している。チラチラとこちらを気にしながら練習する部員も多い。
「詩帆ちゃん、マネージャーの仕事、だいぶ慣れた?今までこんなにお日様の下にいたことないでしょ。しんどくない?」
奈津はボトルに水を入れ、ドリンクを作りながら、横で同じくボトルに水を入れている詩帆ちゃんに話しかけた。まなみも「ほんと、ほんと」とうなずいている。
「あ、暑いけど、大丈夫です!でも、みんな偉いです。この暑さの中あんなに走って。」
手の甲で額の汗をぬぐいながら、心からこの仕事を楽しんでる・・というように詩帆ちゃんが答える。
「ま、こんなかわいい後輩ができて、うちらはうれしいけどね!」
まなみが「ね~!」と奈津の方を向いて首を傾けるので、奈津も一緒に「ね~!」と首を傾けて微笑んだ。そんなことをしてる間に、ドリンク作りが終わりに近づいてきたので、奈津は時間を確認した。、
「あ、そろそろシュート練習終わって、紅白戦!詩帆ちゃんビブス取ってきて。まなみは先生から預かったチーム分けをみんなに伝えて、チーム分けして。わたしは・・・と、ボールが場外に2,3個出てたから拾ってくるね!」
そう言うと、3人はドリンクのボトルをかごに入れ、それぞれ、かごを持つと、ゴールポストの横まで走り、それを運んだ。その後、3人は3方向に散らばってそれぞれの仕事にとりかかった。
奈津は、まず、テニスコートの脇に転がってるボールに駆けより、それを拾うとサッカーゴールに向かって投げた。次は、グランドと駐車場を仕切っている柵の前。そのボールも投げてしまうと、ふーっあっついな~と一旦立ち止まり、首にかけてたタオルで汗を拭いた。それから、もうないかな・・とぐるーっと見回してみる。
「あ、あんなところに。」
奈津は理科棟の近くまで転がってるボールを見つけるとそこに向かって走った。陽射しが強いのでちょっとうつむき加減で。奈津はボールに駆け寄るとそれを拾い上げ、ゴールポストに向き直った。手で投げるにはちょっと遠い・・・か。ふっとサッカーボールを手から浮かすとボゴッ!!奈津はボールを勢いよく蹴った。ズバッ!!サッカーボールはゴールの裏側、ど真ん中に命中した。
「ハハ!ナイシュー!」
奈津は小声で言うと、小さくガッツポーズをした。ボール回収終了!さ、グランドに戻ろうか!と走り始めようとしたその瞬間、
パチパチパチ・・・
後ろで誰かが拍手する音とともに
「すごいすごい!」
という感嘆の声まで聞こえた。何事?と思って振り返ると、理科棟のちょうど陰になっている階段のところに誰かが座ってこっちを見ている。明るいところから陰を見るので目が慣れず、目を凝らしてみる。
「えっと・・・タムラ君・・?」
ようやく誰かが分かり、奈津は、今のボレーキック一連の超男子っぽい姿を見られた恥ずかしさと、照れくささで思わずはにかんでしまった。
「ほんと、すごいミドルシュートだった!」
タムラ君は、眼鏡の奥の目を最大限に見開いてびっくりした顔をしている。思いがけず褒められて、奈津はこそばゆい感じがして、ますます変な照れ笑いになってしまった。
「え?そうかな~!!でも、見事決まったね!!自分でも気持ちよかった!!」
奈津は素直に喜び、満面の笑顔を返した。
「ナイシュー!!」
タムラ君も眼鏡の奥の目を糸目にし、きれいな白い歯を見せ、クシャッと笑顔になった。しばらく二人で笑い合った後、ふと、疑問に思って奈津は尋ねた。
「そう言えば、タムラ君、ここで何してるの?」
「ん、サッカー見てる。」
始まった紅白戦に目をやりながら、タムラ君が答えた。
「サッカー好きなの?」
グランドに目をやり、今、マネージャーの仕事がないのを確認すると、タムラ君から少し離れて横に座り、奈津は尋ねた。
「うん、中学に入るまではよくしてた。」
紅白戦のボールを目で追いながらタムラ君は答える。
「中学でサッカー部入らなかったの?もうしてないの?」
奈津の質問に、タムラ君は、紅白戦の方に顔を向けたまま、
「うん・・・・・日に焼けるから・・・」
と、さっきの声よりトーンを落として、小声で答えた。日に焼けるからやらないって男子のくせに!!だから、そんなに色白いのか。サッカー部のみんなの黒さ見てごらん!ついでにわたしも!!と奈津は心の中のツッコミを声に出したかった。でも、ふと、そう言えば、「日光アレルギー」というものもあるって聞いたことがあるな・・・ なにか健康上の理由でもあるのかもしれない・・・と、日焼けのことについては深く聞かないようにスルーすることにした。すると、今度はタムラ君が奈津の方に顔を向け、
「えっと名前・・・」
と言いながら奈津を見ながら顔をかしげてきた。
「あ、わたし?そういえば名前言ってなかったね。わたしは、」
と言いかけたとき、
「奈津!!」
サッカーグランドから、名前を呼ばれた。自分のチームの紅白戦が終わり、次のチームと交代して休みに入る、幼なじみの同級生、悠介だった。
「奈津!戻って仕事しろよ!」
「あ、ごめんごめん!もう戻る!」
奈津は悠介に向かって大きな声で答えると「やば!」と肩をすくめて立ち上がった。
そして、タムラ君の方に向き直ると、
「聞いた?わたし、奈津。小沢奈津。みんなには『ナツ』って呼ばれてるから、タムラ君も『ナツ』って呼んでいいよ!」
そう言うと、奈津はグランドに向かい歩き始めた。
「あ、分かった。『ナツ』・・・だね。じゃあ、ぼくのことも『コウキ』って呼んで。中学入るまでそう呼ばれてたんだ。」
後ろから「コウキ」が答える。奈津は振り返ると、
「『コウキ』だね!了解!」そして、奈津は
「じゃ、コウキ、また明日!」と手でOKを作り笑った。
コウキも
「あ・・また、明日!」
とちょっとぎこちなくOKを手で作り奈津に向けて返した。
それから、奈津は「じゃ!」と一言言うとグランドに向かい走り始めた。コウキもOKの形の手を下ろすと、奈津の後ろ姿を見送った。それから、また、サッカーの紅白戦に目を向けた。奈津は走りながら「中学入るまでって、中学からは『コウキ』って呼ばれたことないのかな?う~ん、地味だから?」とぶつぶつひとり言を言っていた。なんか彼の話はツッコミたいところがいくつかあって不思議だった。
「どうしたんだよ!さっきの紅白戦。おまえ全然ボールが足に収まってなかったぞ!鷹斗からのパスも見てなかっただろ!集中しろよ!もうすぐインターハイ予選だぞ!」
壮眞は悠介の背中に向かって、声を荒げていた。
「ごめん。今の試合ちょっと調子悪かった・・・。次はいけるから・・」
悠介はボトルに手を伸ばしながら答えた。そして上を向いてドリンクを口に流し込み始めると、目を理科棟の方に向けた。奈津がこちらに向かって走ってくるのが見えた。そして、悠介の目には、さっき奈津と話していた見たことのない男子生徒の姿も映っていた。
サッカー部のジャージに着替えた奈津とまなみは、この4月からマネージャーになったばかりの1年生、詩帆ちゃんとドリンクの準備をしていた。詩帆ちゃんは幼い頃からクラッシックバレエをし(高校入学と同時にやめてしまったらしいが・・)、中学校でも合唱部に入っていたという、サッカー部とは縁遠い本当に女の子らしい女の子だ。奈津もまなみも何でこんな女の子が汗臭いサッカー部のマネージャーになってくれたのか、今でも不思議でしかたない。年がら年中日に焼けてきた奈津とまなみとは違って、色白で透明感のある彼女の存在は、俄然、部員たちのやる気を引き出している。チラチラとこちらを気にしながら練習する部員も多い。
「詩帆ちゃん、マネージャーの仕事、だいぶ慣れた?今までこんなにお日様の下にいたことないでしょ。しんどくない?」
奈津はボトルに水を入れ、ドリンクを作りながら、横で同じくボトルに水を入れている詩帆ちゃんに話しかけた。まなみも「ほんと、ほんと」とうなずいている。
「あ、暑いけど、大丈夫です!でも、みんな偉いです。この暑さの中あんなに走って。」
手の甲で額の汗をぬぐいながら、心からこの仕事を楽しんでる・・というように詩帆ちゃんが答える。
「ま、こんなかわいい後輩ができて、うちらはうれしいけどね!」
まなみが「ね~!」と奈津の方を向いて首を傾けるので、奈津も一緒に「ね~!」と首を傾けて微笑んだ。そんなことをしてる間に、ドリンク作りが終わりに近づいてきたので、奈津は時間を確認した。、
「あ、そろそろシュート練習終わって、紅白戦!詩帆ちゃんビブス取ってきて。まなみは先生から預かったチーム分けをみんなに伝えて、チーム分けして。わたしは・・・と、ボールが場外に2,3個出てたから拾ってくるね!」
そう言うと、3人はドリンクのボトルをかごに入れ、それぞれ、かごを持つと、ゴールポストの横まで走り、それを運んだ。その後、3人は3方向に散らばってそれぞれの仕事にとりかかった。
奈津は、まず、テニスコートの脇に転がってるボールに駆けより、それを拾うとサッカーゴールに向かって投げた。次は、グランドと駐車場を仕切っている柵の前。そのボールも投げてしまうと、ふーっあっついな~と一旦立ち止まり、首にかけてたタオルで汗を拭いた。それから、もうないかな・・とぐるーっと見回してみる。
「あ、あんなところに。」
奈津は理科棟の近くまで転がってるボールを見つけるとそこに向かって走った。陽射しが強いのでちょっとうつむき加減で。奈津はボールに駆け寄るとそれを拾い上げ、ゴールポストに向き直った。手で投げるにはちょっと遠い・・・か。ふっとサッカーボールを手から浮かすとボゴッ!!奈津はボールを勢いよく蹴った。ズバッ!!サッカーボールはゴールの裏側、ど真ん中に命中した。
「ハハ!ナイシュー!」
奈津は小声で言うと、小さくガッツポーズをした。ボール回収終了!さ、グランドに戻ろうか!と走り始めようとしたその瞬間、
パチパチパチ・・・
後ろで誰かが拍手する音とともに
「すごいすごい!」
という感嘆の声まで聞こえた。何事?と思って振り返ると、理科棟のちょうど陰になっている階段のところに誰かが座ってこっちを見ている。明るいところから陰を見るので目が慣れず、目を凝らしてみる。
「えっと・・・タムラ君・・?」
ようやく誰かが分かり、奈津は、今のボレーキック一連の超男子っぽい姿を見られた恥ずかしさと、照れくささで思わずはにかんでしまった。
「ほんと、すごいミドルシュートだった!」
タムラ君は、眼鏡の奥の目を最大限に見開いてびっくりした顔をしている。思いがけず褒められて、奈津はこそばゆい感じがして、ますます変な照れ笑いになってしまった。
「え?そうかな~!!でも、見事決まったね!!自分でも気持ちよかった!!」
奈津は素直に喜び、満面の笑顔を返した。
「ナイシュー!!」
タムラ君も眼鏡の奥の目を糸目にし、きれいな白い歯を見せ、クシャッと笑顔になった。しばらく二人で笑い合った後、ふと、疑問に思って奈津は尋ねた。
「そう言えば、タムラ君、ここで何してるの?」
「ん、サッカー見てる。」
始まった紅白戦に目をやりながら、タムラ君が答えた。
「サッカー好きなの?」
グランドに目をやり、今、マネージャーの仕事がないのを確認すると、タムラ君から少し離れて横に座り、奈津は尋ねた。
「うん、中学に入るまではよくしてた。」
紅白戦のボールを目で追いながらタムラ君は答える。
「中学でサッカー部入らなかったの?もうしてないの?」
奈津の質問に、タムラ君は、紅白戦の方に顔を向けたまま、
「うん・・・・・日に焼けるから・・・」
と、さっきの声よりトーンを落として、小声で答えた。日に焼けるからやらないって男子のくせに!!だから、そんなに色白いのか。サッカー部のみんなの黒さ見てごらん!ついでにわたしも!!と奈津は心の中のツッコミを声に出したかった。でも、ふと、そう言えば、「日光アレルギー」というものもあるって聞いたことがあるな・・・ なにか健康上の理由でもあるのかもしれない・・・と、日焼けのことについては深く聞かないようにスルーすることにした。すると、今度はタムラ君が奈津の方に顔を向け、
「えっと名前・・・」
と言いながら奈津を見ながら顔をかしげてきた。
「あ、わたし?そういえば名前言ってなかったね。わたしは、」
と言いかけたとき、
「奈津!!」
サッカーグランドから、名前を呼ばれた。自分のチームの紅白戦が終わり、次のチームと交代して休みに入る、幼なじみの同級生、悠介だった。
「奈津!戻って仕事しろよ!」
「あ、ごめんごめん!もう戻る!」
奈津は悠介に向かって大きな声で答えると「やば!」と肩をすくめて立ち上がった。
そして、タムラ君の方に向き直ると、
「聞いた?わたし、奈津。小沢奈津。みんなには『ナツ』って呼ばれてるから、タムラ君も『ナツ』って呼んでいいよ!」
そう言うと、奈津はグランドに向かい歩き始めた。
「あ、分かった。『ナツ』・・・だね。じゃあ、ぼくのことも『コウキ』って呼んで。中学入るまでそう呼ばれてたんだ。」
後ろから「コウキ」が答える。奈津は振り返ると、
「『コウキ』だね!了解!」そして、奈津は
「じゃ、コウキ、また明日!」と手でOKを作り笑った。
コウキも
「あ・・また、明日!」
とちょっとぎこちなくOKを手で作り奈津に向けて返した。
それから、奈津は「じゃ!」と一言言うとグランドに向かい走り始めた。コウキもOKの形の手を下ろすと、奈津の後ろ姿を見送った。それから、また、サッカーの紅白戦に目を向けた。奈津は走りながら「中学入るまでって、中学からは『コウキ』って呼ばれたことないのかな?う~ん、地味だから?」とぶつぶつひとり言を言っていた。なんか彼の話はツッコミたいところがいくつかあって不思議だった。
「どうしたんだよ!さっきの紅白戦。おまえ全然ボールが足に収まってなかったぞ!鷹斗からのパスも見てなかっただろ!集中しろよ!もうすぐインターハイ予選だぞ!」
壮眞は悠介の背中に向かって、声を荒げていた。
「ごめん。今の試合ちょっと調子悪かった・・・。次はいけるから・・」
悠介はボトルに手を伸ばしながら答えた。そして上を向いてドリンクを口に流し込み始めると、目を理科棟の方に向けた。奈津がこちらに向かって走ってくるのが見えた。そして、悠介の目には、さっき奈津と話していた見たことのない男子生徒の姿も映っていた。