❀🍞Pan・Rouge🍞 Ⅰ❀
―――それから、彼女は義理の父親でもある、運転手の山川寿と一緒に―――病棟に入っていた。
山川寿はその様子に、密かに、ポタポタと涙が零れ落ち、涙ぐんでいた。ギプスをしており、酸素マスクをしており、まるで眠っているようだ。眠っているだけであり、呼吸はちゃんとしていた。
山川寿は『―――智也・・・生きていて・・・良かった・・・本当に―――。御前を・・・捨てた事―――今でも、恨んでいるようだが、俺は―――菜緒さんと、一緒に幸せになって欲しい。』と言う。その言葉に、指がぴくっとすると、『―――な・・・菜緒・・・だと?』と口を動かした。
『―――私が・・・分かるの?』
智也はゆっくりと首を横に振ると、医者が『―――記憶喪失-――生活も難しいわ・・・』と言った。彼女は金田美紅という、女医さんは『―――貴方のパン・・・一つ、私にくれないかしら?
』と強請った。
『―――智也を捨てたのは、この人じゃないの・・・あぁぁ・・・このパンーーー昔、食べた事があるパンだわ・・・私もこの人も・・・パンを作る仕事をしていたの・・・だけど、喧嘩別れしてしまってね、2人して―――育てられなくなったの―――後悔しているのよ・・・この人―――。』
その様子を見ると、金田美紅は涙ぐんでいた。智也はボーっと天井を見つめており、何もしゃべってくれない。だけど、『―――貴方も・・・このパン、食べてみる?自分の店のパンでしょう?』
其の言葉に、智也は『―――パン?』と呟くと、菜緒は子供の一人を抱っこした。
―――見て・・・
貴方の子供よ―――
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