やがて春が来るまでの、僕らの話。
胸が高鳴るまま、私は勢いよく立ち上がって、
「私、谷ハナエですっ、よ、よろしくお願いします!」
三人に向けて、深すぎるほど深く頭を下げた。
「…………」
「…………」
「…………」
あ、あれ……?
不自然に流れる沈黙に、何か間違えたのかと焦ったとき。
「いや、名前ぐらいはさすがに知ってっけど」
「あはは、ハナエちゃんおもしろーい」
「っ…」
賑やかな声が景色を変える瞬間を、初めて見た。
モノクロだった世界が、今この瞬間、キラキラと鮮やかに塗り変わっていく。
みんなの声の中に私がいて、それだけで飛び跳ねたいくらい嬉しくて。
だって、私の声を聞いてくれている。
私に笑いかけてくれている。
それだけで、なんかもう……
「いや、でも待てよ。知ってるのは俺らの方だけか」
呟くように言ったあと、柏木くんは私に向けて人懐っこい笑顔をみせた。
「柏木秀人でーっす。よろしく」
「あ、そっか」
柏木くんの隣の彼女も、私に向けて同じように可愛く笑った。
「内田陽菜でーっす。よろしくっ」
嬉しかった。 本当にすっごく嬉しかった。
三人の存在が、心の底から嬉しすぎてたまらない。