やがて春が来るまでの、僕らの話。
「親に暴力を振るわれたこともないし、家族を亡くした経験もない。そんな俺には俺なりの価値観があるわけで」
「……」
「そんな俺の価値観的には、お前は胸張って学校行くべきだって思うわけ」
「うん…」
「くだらない噂なんか、俺が蹴り飛ばしてやるからよ」
「、……」
眩しさの中に見えた若瀬くんの笑顔は、本当に目が眩むほどキラキラしていた。
彼がいてくれるなら、きっと皆勤賞も夢じゃない。
あ、でももうすでに授業サボってるからダメか、なんて。
そんなことを考えて笑えるくらい、進む道のりは軽かった。
学校に着くと、早速刺さる視線の数々。
父親のこと、相当噂が広がっている証拠みたい。
視線と共に聞こえてくるのは、コソコソ話す小さな声。
私の父親の話とか、お酒を飲んで車に乗ったとか、耳を澄ませばそんな声が聞こえてくる。
まだ玄関なのにこれだもん。
教室に入ったら、きっと一気にシーンとしちゃうんだろうな……
「ほら行くよ」
大丈夫、この人がいてくれる。
「うん」
だから私は、大丈夫。
昨日洗った上靴はまだ少し濡れていたから、朝ドライヤーで乾かした。
新品みたいにとはいかなかったけど、それなりにキレイになったと思う。
大丈夫、足取りは重くない。
視線もまだ耐えられる。
大丈夫。
だいじょ、
「まだ来ないねー、谷さん」