やがて春が来るまでの、僕らの話。
「ひどい……」
「え?」
「無視するなんてひどい…」
「無視って、喧嘩でもしてるの?」
「……してない」
喧嘩はしていない。
じゃあなんでそんなこと。
「ひでは私が呼べば、絶対振り向いてくれるのに。なのに……」
「きっと聞こえてなかっただけだよ」
陽菜の言葉を、軽く流した。
だってこんなこと普通って言うか、どう考えても聞こえていないか考え事をしているかのどっちかだと思うから。
だけど陽菜は……
「………どうしよう……」
表情は晴れるどころか、さっきよりも青白くなっていた。
ただ名前を呼んで、たまたまこっちを見てくれなかっただけなのに。
俯いてしまった陽菜は、まるでこの世の終りみたいな声で言う。
「ひでがいなくなったら…………私、死ぬ……」
「、…」