やがて春が来るまでの、僕らの話。
いつも四人で帰っていた通学路を、一人で歩いていく。
柏木くんも若瀬くんも一人で歩いてるんだろうなって思ったら、悲しくて胸が潰れそうだった。
ガチャ
「……ただいま」
小さなアパートのドアを開け、独り言みたいな挨拶をする。
だってお母さんは仕事だから、返事なんてあるはずない。
そう思ったのに、家の中にはお母さんがいた。
「おかえり」
「あれ、仕事じゃなかったの?」
お母さんは台所に立っていて、美味しそうな料理の匂いが漂ってくる。
でも私、食欲ないよ……
「ハナエ、ちょっと話があるから座ってくれる?」
呼ばれてすぐ、鞄を置いて床に座った。
目の前に同じように座ったお母さんは、申し訳なさそうにトーンを下げて私に言う。
「この町をね、出て行こうと思うの」
「え?」
町を、出て行く?
「ごめんね、何度も引っ越しをさせて……」
「………」
「お母さん、少し体の具合が悪くてね。大きな病院に通わなくちゃいけなくなって…」