やがて春が来るまでの、僕らの話。
九時……そろそろ今日の宿を決めないと。
誰か声掛けてくれないかなって、ナンパ待ちの体勢に入る。
昨日は漫喫に泊まりだったから、出来ればそれは避けたいな。
広いホテルに行きたい。
誰でもいいから、声掛けてくれないかな。
「お姉さん、一人?」
目の前で足を止めたのは、金髪のいかにもチャラそうな若い男だ。
今ドキ金髪ってどうかと思うけど、とりあえずそれは置いておこう。
「一人だけど」
「まじー?え、何歳~?」
「22」
「おー、タメじゃーん。じゃあ記念にどっか遊びに行こうよー」
何の記念?って溜め息が出そうになったけど、もしかしたら宿にありつけるチャンスかもしれない。
「五万くれたら遊んでもいいよ」
「は?」
「遊ぶなら五万。ホテル行くなら十万」
男を追い払う為に言ってるんじゃない。
お金が欲しい。そして寝る場所が欲しい。
ただそれだけだ。
「は~?んな金ねーし」
「じゃあ無理」
何も手に入らないならこんな男に用はない。
早く目の前から消えて欲しい。
「んな金あったら最初から高級風俗行くっつーの」
「あっそ」
蔑むような目で私を見たあと、男は夜の街に消えていった。