やがて春が来るまでの、僕らの話。



「はぁ……今日も満喫かなぁ」


やっぱり今週は厳しいのかもしれない。

だって世間は給料日前ってやつみたいだし……



「十万でいいの?」


頭上から聞こえた声に顔を上げると、スーツを着た男の人が立っていた。

恐らく年上で、着こなしからして上品な感じだ。


「君可愛いね。十万でいいなら一緒にどう?」


これは交渉成立?

広いお風呂に入れる感じ?

しかも十万もゲット?


「ほんとにくれるの?十万」

「もちろん」


三十代であろう男の人は、笑顔を広げ手を差し出してきた。

私は迷うことなく手を伸ばし、自分のを重ねる。


私は今からこの人とホテルに行くのか。

すっかり慣れてしまったこの行為に、もう胸すらも痛まない。


「じゃあ行こ、」

「俺百万出そうかなっ!」


えっ。


右側にいる彼とは逆、左側から違う男の声が聞こえた。


百万?

今、百万って言った?


見るとカーキのPコートにデニム姿という、ラフな格好のお兄さんが立っていた。

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