やがて春が来るまでの、僕らの話。



「いや、俺が先にこの子に声掛けたんだけど」

「でも十万でしょ?俺百万」


なに、Pコートのお兄さん、本当に百万くれるの?

でもなんか見るからに普通のお兄さんっていうか……百万持ってるようには見えないんだけど。


「よし、行こう!」

「ええ!?」


強引に手を掴まれたと思ったら、Pコートのお兄さんはいきなり猛ダッシュで走り出す。

なにを言う暇もなく引っ張られた私の体は、意思に反して夜の街を駆け抜ける。


え、ちょっと、なにこれ!?




人混みを上手い具合に避けながら、見知らぬ男は私の腕を掴んでぐんぐん走る。


どこまでも走る。


どこまでもどこまでも、


どこまで走るの!



「ねぇなんで走ってるの!?」

「だって遅刻しそうだし!」

「意味わかんない!」



ていうか百万は!?


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