やがて春が来るまでの、僕らの話。


「じゃあ五分、ここで待っててね」

「え」


そう言うと、男はどこかへ消えてしまった。


待って、置き去り?

やだな、こんな知らないお店に一人って……。

しかもバーなんて普段来ないから、余計に居辛い。

そもそも私、なんでこんな所にいるんだっけ?

そうだ百万、あの男がくれるって言ったんだ。

でもあの男、絶対百万なんて持ってないよね。

もう勝手に帰っちゃおうかな。


うん、そうしよう。

外で次のターゲットを探して、早くホテルに、


「お待たせー!」


戻ってくる気配なんて感じなかったのに、さっきの男の声がすぐ近くから聞こえた。

驚いて顔を上げた私の目には、しっかりとその姿が映る。


黒のベストに白いワイシャツ。

黒のパンツに長めのエプロン。

その格好は、どう見てもバーテンダーだ。

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