やがて春が来るまでの、僕らの話。
「えーと…」
これは一体……
「俺この店でバーテンダーやってんの」
「そのようですね…」
「はい、これ」
カウンターの中から渡されたのは男の名刺で、『パスタBARバーテンダー・杉内幸一郎』と記されていた。
「あの、」
「杉内幸一郎です、23歳、よろしく!」
「いや、あの、」
「なに飲む?あ、お腹空いてる?パスタ食べる?」
「お金ないし」
「うん、知ってる」
「え、なんで」
「あんな道端で男に金たかってんだもん、そりゃ金なんてないでしょ」
別にたかってた訳じゃないんだけどな。
「いいよ俺の奢りだから」
「悪いし…」
「百万ひったくろうとしてたくせになんで今更謙虚になってんの?」
だから、たかってもないしひったくってもないんだけど!
そしてやっぱり百万はくれないんだね。
「カルボナーラでいい?」
遠慮と警戒が手伝って、私は何も答えられなかった。
そんな私の心を読んだのか、男はホールの従業員にカルボナーラをお願いしている。
なにこの人。なんで見ず知らずの私に、こんなこと……